精神疾患研究の難易度は高く、この進展には基礎から臨床に至る多様な研究が必要とされます。また、現在までに大規模なゲノム解析が行われた結果、ゲノム解析のみ進めても、精神疾患の解明には限界があることが見えつつあります。一方、精神疾患にはアルツハイマー病やパーキンソン病に観察されるような、神経変性や細胞死は観察されていません。そこで、本領域では、精神疾患の病態は神経回路、回路内のニューロン、ニューロンを結ぶシナプス、さらに、細胞内の分子動態に存在すると予想し、精神疾患を導く回路・細胞・分子動態レベルの病態をマイクロエンドフェノタイプと名付けました。従来のエンドフェノタイプからミクロのレベルに踏み込んだ、この「マイクロエンドフェノタイプ」は、ヒトを対象とする研究、モデル動物を用いた研究と、精神病態の分子基盤を解明する研究との三者間を結び、かつ、基礎研究者に研究すべき具体的対象を明確に提示するインターフェイス的役割を果たすものと考えています。本領域では、このマイクロエンドフェノタイプを可視化して同定することを、第一の目標としました。ゲノム要因と環境要因を再現した動物モデルと、ヒト由来試料(iPS細胞と死後脳)を用いた解析から、各精神疾患に特異的あるいは共通するマイクロエンドフェノタイプを同定します。さらに、モデル動物・細胞を用いて、同定したマイクロエンドフェノタイプの分子基盤・病態機序を分子細胞生物学的に解明することを第二の目標としました。
総括班では、動物とヒトを対象とする基礎と臨床研究が有機的に統合した研究領域の確立を目標として領域を運営します。計画・公募研究の進展、領域内の共同研究、精神疾患領域における基礎研究のレベルアップ、新規基礎研究者参入による精神疾患研究領域の拡大、若手研究者の育成を推進します。
精神疾患研究では多様な解析技術が必要となるために、単一研究室で、しかも、世界的レベルで全解析を進めることは困難です。また、精神疾患研究に日本の高い水準の分子生物学的技術を普及させることは、国内に、ハイレベルで、かつ、独創性の高い精神疾患研究領域を創生することに繋がります。そこで、本領域では、精神疾患の分子基盤研究に必要とされる基本的解析がほぼ網羅されるように支援班を設置し、支援活動を通して領域の研究水準・技術水準の向上を図ります。一研究室で行うには荷が重過ぎる解析が、支援班との連携により可能となります。